エリナー・ファージョン作 石井桃子訳 岩波書店
この本の作者、エリナー・ファージョンは、イタリアを訪れたことがありました。そこで起こった実際の出来事と、その出来事から収められたお話とが、交互に収められています。
とてもやさしく、ていねいな文章で、イタリアの風景が語られます。私がこの本の文章を読んで思い浮かべたのは、明るい日光の下、まぶしくてぼやけたように淡く見えるイタリアの木々や、家々の屋根などです。明るく、現地の人たちでにぎやかな感じのするイタリアですが、作者は、一歩離れて、静かに、けれどもとても楽しんでその風景を見つめているような気がします。
現れるモチーフも素敵なものばかりです。金色のオレンジ、黄色のレモン、ケーキや、パイや、砂糖づけの果物や、うつくしい色紙、今はだれも住んでいない「ねむりひめ」のご殿のような家、噴水などです。まるでおとぎ話に出てくるようなものばかりです。
王子さまと、高い塔に住んでいて姿の見えない王女さまのお話、シエナの町でいちばんうつくしいロザウラという女の子と、その求婚者たちのお話、トリポリの王さまが、人々のためにパスタをもとめに行く話など、作者がイタリアにいる間に思いついたお話が6編入っています。実際の出来事の章は5編です。
まるで作者が、イタリア旅行の思い出を私たちに語ってくれたかのようです。実際の出来事のことを書いてある章も、詩的で美しいですし、作者が思いついたお話は、色とりどりの夢にあふれています。私は、この本をどこから読んでも、大切にしたいイメージや表現を見つけることができます。