亀井俊介 編 岩波書店
1830年、アメリカのマサチューセッツ州、アマーストで、町の名士の娘として生まれた女性詩人、エミリー・ディキンソンの詩集です。彼女は生前は数編の詩を発表しただけでしたが、死後、千数百編もの詩が発見されました。
この文庫本は対訳になっていて、英語の原詩と日本語訳を照らし合わせて読むことができます。載っているのは50編の詩です。
詩の中には、雪や草むら、夕暮れなどの自然や、鹿や小鳥などの動物、「宝石」や「魔術師」などの言葉も登場します。一つ一つの風景や出来事の中に潜む、人生の意味や世の真理といったテーマを感じさせるような詩が多いような気がします。愛がテーマの詩もありますが、それを高らかに歌い上げるという感じではなく、ひそやかに、けれども強く言葉に表しているような感じを受けました。
作者が、今自分がここにいる意味を、比喩なども交えながら、少し茶目っ気もいれつつ、けれども真剣に自問自答しているような詩があります。エミリー・ディキンソンは、55歳で亡くなるまで、あまり外出もせず、ずっと自分の部屋にこもって詩を書き続けたそうです。作者がその時見ていた世界というものを、今、詩を通して感じることができると思います。
この本には、英語の単語の解説や、当時の生活の説明、エミリー・ディキンソンゆかりの品々の写真なども載っています。エミリー・ディキンソンの世界を楽しめる文庫本です。

